ロルフィング追求記 — ソトコト 2013年12月号

Sotokoto 2013年12月号

Rolfing Report

ロルファー、アメリカでさらなる境地に。
ロルフィング追求記

アリゾナ州フェニックスで開かれた最新セミナー。ロルフィングの発展の変遷という、かけがえのない時間を仲間たちと共有した。

いざ、アリゾナへ ― 触れないロルフィング?!

ロルフ・インスティテュートの教員向けに、セミナーの案内が届いた。講師の中に、ジェフリー・メイトランドの名前がある。NBAチームのスタッフとして数々のスーパースターたちをロルフィングしてきた実績に加え、長年ロルフ・インスティテュートの教授陣の中枢にいるロルファーである。

ジェフリー・メイトランド先生と新刊(当時)

今回のセミナーのテーマは「エネルギー的なアプローチをどう取り入れていくか」。場所はアリゾナ州フェニックス――ジェフリーの活動拠点だ。せっかくの機会なので、前日に彼の個人セッションを受けることにした。

スコッツデールにある彼のオフィスには、新刊が飾ってある。哲学の博士号を持ち、ロルファーになる前は大学で教鞭をとっていた彼は、禅を探究し「法覚」という名前を授かっている。

セッションはまず、胸郭の膜組織への働きかけから始まる。タッチはきわめて優しい。左肩の不調を伝えると、パーカッサーという機器を用いて振動を部位に当てる。確かに肩の動きがスムーズに感じられた。

最後に「"何もしない"ワークをするけど、いいか?」と聞かれた。台に横になると、離れたところで彼がただこちらを見守っている。しばらくすると私の身体が反応し始め、胸郭に息がぐぐっと入ってくる。あるとき気分が変わってくるのが感じられた。彼曰く「それがジョイの感覚だ」という。終始ただ見守られているだけだったが、私の胸郭は深いところから広がり、新しいジョイの感覚に満ちていた。

ロルフィングを再定義?!

参加者の半数以上が初対面だが、米国のロルフィングクラスで私のクライアントを教えたことがある先生がほとんどで、不思議な親近感を覚える。上級インストラクターのレイ・マッコールの進行により、エネルギーワークをどのように実践の中で使っているかをシェアしたり、ジェフリーが提案するロルフィングの再定義についてディスカッションが進む。

ジェフリー・メイトランド先生のデモに続くディスカッション

英語のシャワーに頭はパンク寸前で発言まで至らず悶々とする。午後は実習もあって幾分楽だが、なにせ組む相手はそうそうたる先生ばかりで気は抜けない。

最初のペアは恩師のスーザン・ピカード。自分の意識の向け方を変えることで、身体が圧力を感じたり、オープンになったりするのを体験した。続いて、ソースポイントを取り入れたレイのデモセッション。34年のキャリアを持つレイでも、大御所ジェフリーや他の教員の前では緊張することを知り、ちょっとほっとした。

思わぬ展開

朝から、ジェフリー独自のエネルギーワークのデモを興味深く観察。起きてくることをただニュートラルに捉え、淡々としているが、どこか遊び心がある感じ。法覚和尚のワークはかなり翔んでいるけれど、抵抗なく観ていられる。

手を触れずに行う実習をハワイの先生サリーと組んでいると、メアリー・ボンド女史が寄ってきて「あなたのデモが見たいわ」という突然のリクエスト。「私は今日の夕方帰っちゃうから、今日がいいわね」とのさらなる追い打ちに、しばし言葉を失う。しかしここで発言も存在感も示さず帰国するのは情けない――そう気を取り直し、思い切って「OK」と告げ、進行役のレイに交渉しにいく。

アート・オブ・イールドをデモンストレーションする

デモセッションの受け手に名乗りをあげてくれたのは、リクエストしてくれた当人のメアリー先生。まず触れる前に、感覚を身体に集めてくる指向と周囲の空間に発散する指向の両方を持ちながら、受け手の身体で起きていることを見守る。すると受け手の身体に呼吸が入ってくる。後は、呼吸に伴う振動が伝わりやすいよう軽く触れて、また見守る――を繰り返し、時折離れた位置からもワーク。周囲からもはっきり変化がわかる結果となり、無事終了。

「ロルフ博士のスピリットが海を越え、日本で花を咲かせている」 ― メアリー・ボンド

ジェフリーも「スウィート、スウィート」と何度も繰り返し、「このワークは君が発展させたのか? 次回、動画撮影していいかい?」と話しかけてくれた。メアリーからお礼に彼女のDVDをプレゼントされた。日本から来た甲斐があった。

最後に

朝はボブ・シュライによるソースポイントのデモに続いて、その恩師・キャロル先生と交換セッションの実習。この技法を自分が使うイメージはないが、ロルフ博士のエネルギーに対するコメントを引用してロルフィングとの関連をうまく説明している点や、手順がきっちりしていることが、導入しやすい理由なのだと納得した。

今回のピアセミナ−に集まったロルフ・インスティテュート教員の同僚

4人それぞれの形のエネルギー的なアプローチ(触れない働きかけを含む)が、通常のロルフィングセッションと同様の効果があることを共有できた。

「守・破・離」の境地

ロルフィングの基本の10回の型を習得する段階が「守」、それを自分なりに発展させる「破」、そして技法や型から離れ自由自在の境地にあるのが「離」だとするなら、ジェフリーはまさにその「離」の境地にいる印象だった。

しっかりと圧力を加えるタイプのワークはこれからも基本の型として残っていくだろう。新しい試みとしてのエネルギーワークの検討は始まったばかりである。いずれにしても、このタイミングで、同志と共にロルフィングの発展の変遷に立ち会い、関わることができるのはとても光栄なことである。

ジェフリー・メイトランド先生と
田畑浩良(たはた・ひろよし) ロルファー。1963年、栃木県生まれ。島根大学落合英夫教授率いる生物化学研究室に学び、1987年修士課程修了。林原生物化学研究所研究員として勤務後、米国コロラド州ボールダーのロルフ・インスティテュートよりロルファーとして認定。2009年には同インスティテュートのムーブメント部門の教員となる。

ロルフィング追求記 パート2 — ソトコト 2014年11月号

Sotokoto 2014年11月号

Rolfing Report

パート2

ロルファー、仲間たちの待つアメリカに!
ロルフィング追求記

昨年開催されたセミナーの続編に参加。今回は自身のワーク「イールドワーク」を教員陣の前で披露することに。はたして信頼する仲間たちからの反応は?

昨年セミナーの続き、再びフェニックスへ

コロラド州ボールダーに本拠地を置くロルフ・インスティテュートでは、「身体の統合のために有効な技術や概念」の検討が続けられている。昨年、教員らが「ロルフィングを再検討するうえでのエネルギーワークの探求」というテーマで3日間のセミナーを開催。その中で自分のワークをデモする機会を得た田畑さんが、今年も同じ場に招かれた。

3月のフェニックスはベースボールシーズンと重なり、メジャーリーグの半分がここに集まり練習試合を行うために、最も人気の高い時期。昨年と同じZenYard B&Bに宿泊し、クラス前日にコーディネーターのキャロルとレイを交えて打ち合わせを行った。

左から、ジェフリー・メイトランド、レイ・マッコール、キャロル・アグニッセンス(敬称略)

「ゆだねる動き」が生み出す変化

4日間を通してイールドワークをロルフィング10回シリーズの中に組み込むための概念と実践を紹介するのがワークショップの趣旨だ。

ヒトが成長する段階でまず最初にやることは、「自分の重さを母胎にゆだねる動き(=イールド)」である。私たちが世界と関わりを持つ際の根底にある活動と考えられている。細胞レベルでも、試験管内で正常な細胞が生存・成育するためにはイールドが不可欠で、身体が知っている原初的な「振る舞い」を利用している。

イールドワークは、触れたところを安全な足場として身体が認識すれば、次に周囲の環境に対して広がろうとする動きが自ずと生まれる、という原理を使う。身体が心身ともに落ち着きを取り戻し、その重さをその場に十分に預けることができれば、萎縮して固まっていた組織に動きが回復し、周りの組織とのつながりや空間的な広がりを取り戻す。

クラスの会場となった建物

教員陣の前でデモ、出だしは好調

自分のキャリア以上のある先輩相手に、しかも英語でプレゼンするというのはあまりにチャレンジすぎるので、当日までなるべく考えないようにしていた。なにしろ鋭い観察眼を持ち、これまで多くの監督をしてきた教授陣に小細工は通用しない。ただ、身体技法は元々が非言語的なやりとりであるから、実際にやっているところを見せるのが手っ取り早い。

今回モデル・クライアントとなってくれたキャシーはベイエリアからの参加。立ち位置や間合いの重要性にもふれながら、このワークで用いるさまざまな種類のタッチを紹介。どれも基本的には触れるか触れない程度か、あるいは触れていても圧力は極めて小さい。数秒程度の軽いタッチでデモンストレーションを進める。

見守る時間をしっかりとっていると、身体が横たわっている台に対して預ける反応が進み、仙骨に自発的な動きが伴う深い反応が引き出される。受け手の高い応答性に助けられて、こちらからの投げかけをすべてポジティブに理解してくれるから、出だしは好調。

錚々たる顔ぶれです

ロルファーは頭ではなくたえず身体感覚を介しているためか、こちらが言わんとすることへの理解に滞りがなく、さまざまな視点からとらえられることで、このワークの解釈がどんどん立体的になっていく。優秀な教師というのは学ぶ姿勢も一貫してすばらしい。教えるのがとても楽しい。自分が蓄積してきた情報を惜しみなくシェアし、それを好意的にたくさん受け取ってくれるプラスの循環に大きな喜びを感じる。

ジェフリーへのデモ、そして大先輩の反応

午前中の第4セッションのデモは特に深い体験となって、これまで数百回と受けてきた様々なセッションの中で最も印象的だった。モデルになってくれた先達から「こんな軽いタッチで変化するのか!?」という意味を込めた苦笑いが連発されていた。

午後は気を引き締めて最後のデモへ。第5セッションは、ジェフリーをモデルに通常より少し応用的な体勢でワーク。ロルファーが知覚をシフトさせ、身体をか弱い細胞という泡の集まりとして認識するだけで、触れ方やタッチの作用・印象が根本から変わってくる。対象としての受け手をどのようにとらえるかによって、受け手の反応性は大きく影響を受ける。

ジェフリー・メイトランド先生へのデモセッション

創始者ロルフ博士から直接学んだという大先輩も、紹介した方法をえらく気に入ってくれたらしく、自分が示したことを大先輩がそのまま練習している様子はなんともいえない不思議な光景だ。昨年のセミナーで私のデモを見た後、教員の何人かはイールドワークをトレーニングのクラスで使ってくれているという。

「ロルフィングのセッションを第1から第10まで立て続けにデモしてくれた。敬愛する先生たちに喜んでもらえた、このうえなく幸せな時間だった」 ― 田畑浩良

ロルフィングの再定義と、エネルギーワークの統合

新たに3名が加わり、昨年までのクラスとは別の雰囲気で、エネルギーが盛り込まれたロルフィングの再定義についてジェフリーから説明があり、特に異論もなくスムーズに合意された。

最終日は、これまでの内容を総括するように、参加者同士の交換セッション、ペアを組んでマッサージテーブル上での実習。ここでちょっとしたいたずら心が芽生え、初顔合わせのトーマスからワークを受けている間、プラクティショナーの意識状態で受けてみることにした。

そのまま何ごともなく終わるはずが、こちらを観察していたサラが鋭いコメントを発表。こちらの内側の状態がすっかりバレていた。彼女はシアトルの大学で鍼灸を教えているというが、感じ取る力はさすがである。

最終日の集合写真(左から2番目がサラ、一番右は、私の最初の解剖学の先生の一人マイケルマーフィー)

エネルギーワークは、下手をすると何の結果も得られない怪しいものに終わってしまう。そうならないのは、ロルフィングの根本方針がしっかりしているからにほかならない。ただ足すだけでは統一感のない混ぜ物ワークになってしまう。まとめたジェフリーがこのセミナーの発起人である意味は大きい。

これまで自分なりに探究してきた方法を、仲間と共有できた時間

経験や年齢、ステイタスに関係なく、若輩からも学ぼうとするオリジナリティに敬意を払い、気さくに接してくれるすばらしい仲間との充実した時間はあっという間だった。

うれしいことに、昨年のセミナーで私のデモを見た後、教員の何人かはイールドワークをトレーニングのクラスで使ってくれているという。今回の会合の成果が次にどんな流れになっていくのか、彼等との再会も含め来年も楽しみである。

ジェフリー・メイトランド先生と
田畑浩良(たはた・ひろよし) ロルファー。1963年、栃木県(那須塩原市)生まれ。林原生物化学研究所の研究員を経て、1998年米国Rolf InstituteによってロルファーとしてRolfing SI認定。以降、数々の個人セッションを提供。2009年、同Institute所属のムーブメント部門の教員となり、ロルファーの継続教育を提供中。福島でのキッズ・ロルフィングや一般向けワークショップも開催中。